製薬工場におけるサーバールームの設計

建築設備

はじめに

現在、AWSなどのクラウド利用によってサーバーレスなシステム構築が主流となりつつあり、工場内にサーバールームを持つメリットは限られてきています。しかし、現状は運用コストやリスクを考慮すると工場内にサーバールームを持ちオンプレミスでサーバー運用をおこなう会社も多くあると思います。

そこで本記事では、製薬工場におけるサーバールームの設計において考慮すべき点を共有したいと思います。

サーバールームの設計において考慮すべき点

製薬会社のサーバールームは生産に関する重要なデータやシステムがインストールされることになるため、常に安定稼働が求められ、災害や人災によるデータ漏洩や紛失がないことが前提です。その前提をもとにサーバールームの設置を検討していくことが求められます。今回は以下の点を主な考慮すべき点として今回は解説します。

  • 災害リスク
  • アクセスコントロール(セキュリティ)
  • 拡張性・メンテナンス
  • 室内温度・湿度
  • エアフロー
  • 電源供給
  • 火災検知及び火災時の消火設備

災害リスクへの考慮

サーバールームはその設置場所から検討が必要です。災害リスク、特に河川の氾濫や津波などによる浸水や地震を考慮すべきです。具体的には、浸水に対しては地区のハザードマップによる浸水高さ以上への設置、地震に対してはその建物自体の耐震性を考慮することになります。地震対策に関しては免震装置をそれぞれのサーバーラックへ設置するなどの対策も考えられます。

アクセスコントロール(セキュリティ)

サーバには基本的に機密度の高いデータが保存されているので誰でもサーバールームへ入ることは許可できません。そのため、施錠管理をおこなうことが基本になりますが、誰がいつからいつまで入室したかログが残るようにすることが後のトラブル対応時に有効になります。ICカードや生体認証なども選択肢に入ると思います。また、セキュリティ面では必要に応じて常時録画の監視カメラ設置も検討が必要です。

拡張性・メンテナンスへの配慮

サーバールームの拡張性はサーバラックの将来を含めた設置可能数と、もしスペースが足りなくなった際、部屋自体を拡張できることを考えます。メンテナンスのしやすさに関しては、サーバラック増設時の容易さ、ラック内へのサーバ類の設置を考えた周囲スペースを考慮が必要です。そのほか、配線のしやすさや排熱を考慮してフリーアクセスフロアとすることも必要です。

室内温度・湿度への考慮

サーバールームは多数のサーバー類が稼働します。そのサーバー類を安定稼働させる為に室温は23℃前後に保つことが必要となります。また電子機器なので湿度も管理する必要があります。これらを満たす空調設備をサーバールームへは設置することになります。サーバー類からの多量の排熱の処理、外部環境変化を考慮して空調を設計する必要があります。

また、空調設備は故障だけではなく、点検や更新による停止まで考慮する必要があります。サーバールームは規模が大きくなるほど部門や生産現場を横断して稼働することになる為、基本的に24時間/365日の稼働を想定しないといけません。そのため、空調設備の冗長化をおこないサーバールーム内の温度・湿度を1年を通じて常に一定に保つように設計をおこないます。

空調設備の故障やサーバールーム内の温度・湿度は常時監視をおこない、問題があった際にはすぐに対処することが推奨です。

エアフローへの考慮

サーバールームではエアフローを考慮する必要があります。サーバーラックは一般的に前面から冷気を取り込み、背面から排熱をおこないます。従って、サーバラック前面に空調機からの冷気が流れ込み、背面側からの排出された温かい空気を排気するように、サーバラックの配置及び空調の給気口・排気口を配置します。空調機は床下送風型や床上置き、天吊り型がありますが、サーバールームでは床下送風型や床上置きを選択します。天吊り型はエアフローを考慮した際にサーバールームには適しません。

電源供給への考慮

サーバーなどの機器は電源が供給されないと稼働できません。また、サーバールームの空調設備もサーバー類が安定的に稼働するように電源供給に配慮すべき設備となります。これらへの電源供給はとても重要なものになります。考慮すべき点は、停電・瞬時電圧低下・故意による電源喪失です。具体的な対処方法としては、長時間の停電には非常用電源が有効です。どこまでの期間を保護すべきかは停電時のリスク計画によって工場全体を考慮して検討すべきですが、製薬会社の生産現場となると停電中のクリーンルーム内の状態監視(温度・湿度)や生産途中の製品の状態監視ができているかどうかはその後の生産開始へのインパクトが異なることも配慮が必要です。短時間の停電や瞬時電圧低下はUPSによる保護が有効です。UPSもサーバラック毎に設置するのか、配電元の配電盤に設置するのか、そのメンテナンスコストや保護範囲によって検討が必要です。故意による電源喪失は基本的に起きない前提で良いかと思いますが、サーバールームへの配電盤などは施錠管理することは当たり前で、配電盤自体をセキュリティの高い場所へ設置するなど配慮した方が良いと考えます。また、変電設備・配電設備の点検による計画停電時の電源供給も配慮する必要があります。

火災検知及び火災時の消火設備

火災検知設備は消防法にて設置が義務付けれられていますので、特筆すべき点はありません。一方で、より高感度で火災を検知する為の煙検知システム(積極的に空気を吸うことで煙を検知し発報する)などもあるので、合わせて検討したら良いと思います。

実際の火災時の消火設備ですが、サーバールーム内の機器は電子機器ですのでデータ保護を考えると基本的には不活性ガス消火設備が選択肢になります。不活性ガス消火設備の設置にはガス噴射中・噴射後の周知や対応など空調設備やセキュリティシステムとの連動など考慮すべき点が多々ありますが今回は割愛します。

サーバールームの冗長化

より重厚に安定稼働・運営をおこなうためにサーバールームを別の建物や別の場所に冗長化して、専用回線を引き、相互にバックアップを取ることで、一層、リスクに備えることも考えられます。また、サーバールームの設置コストや運営を考慮すると外部のデータセンターを間借りすることも考えられます。そのほかバックアップはクラウドサービスを使うことなど、全体のコンセプトからコストバランスを考えた設計をおこなうことが推奨されます。

最後に

製薬会社の工場においては、生産に関わる電子データはとても重要で改ざんや紛失など、規制上、その取り扱いに細心の注意が必要になります。今回の記事では、私が実際に工場内にサーバールームを設置した際に検討しことをまとめました。もしご質問などがありましたらコメント頂けましたら幸いです。

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